ECUを構成通貨単位に分解する

ECUの弱点として、しばしば「最後の貸し手」としての中央銀行の不在が指摘される。しかし現在のECUの現実的運営構造からみて中央銀行の不在は何らの支障もえなかった。特に私的ECU市場の中心は銀行間市場であり、銀行が各種通貨を別々に借り入れてECUを合成し、これをいくらでも作り出すことができる。

当初ベルギー、ルクセンブルク、フランスの銀行でつくるECU相圧決済勘定MESがECU取引の核をなしていたが、一九八五年に国際決済銀行BISが、より拡大された規模でのMESに対する決済機関たることを承認した(一九八六年五月調印)。EC機関でないBISが決済機閔となったということ自体、ECUの国際性、成長性を示すものである。統合ECが発展を遂げている限り、BISは「最後の貸し手」として機能する必要はなく、万が一の場へ目には、ECUを構成通貨単位に分解すればよいという最後の歯止めがここでも有効な役割を果たす。

一九九二年二月七日、オランダのマーストリヒトで、ヨーロッパ共同体ECを、ヨーロッパ連合EUに組織替えする合意がなされた。単一市場を作り、より高度な政治統合に進むためである。そのために新しいEU条約が締結された。この条約によって、EU議会の権限が増大し、加盟各国問の協力がいっそう緊密になった。さらに外交政策でのいっそうの協力と単一通貨の導入が決定された。

単一通貨導入の決定自体は、これまでのEMUの歴史の流れから見て別に唐突なことではない。来るべきものが来たという感じである。むしろ驚かしたのは、単一通貨制度に参加する国に対してつけた厳しい参加条件である。その条件を要約すると以下のようになる。

・参加国は、過度な政府支出を避けなければならない。その基準は、年問赤字がGDPの三パーセント、政府負債額がGDPの六〇八パーセント以下でなくてはならない。
・前年比のインフレ率が、参加国の中で最低の三力国平均を一パーセント以上超えないこと。
・その国の通貨変動が、少なくとも一年間、EMSの定めた正常な変動領域にとどまっていること。
・長期利子率が、最もインフレ率の低い三国の平均をニパーセント以上超えてはならない。