結核菌という病原体

濃厚感染を起こすと、普通の抵抗力を有する若い人々を開放性結核の患者にしてしまうほどの病原性を有する結核菌が、抵抗力の異常に低い乳児などに大量感染すると粟粒結核を起こすわけである。感染免疫という現象も、結核が、発病しなかった人々に免疫を与えるという結核菌にとって一見不利な結果をもたらすと見るべきではない。むしろ開放性結核の患者の生命を永らえさせるというほうが、結核菌にとっては意味のあることだと考えられるのではないだろうか。

いずれにしても結核菌という病原体は、宿主の免疫能力を利用して肺に空洞を作り、長期の栄養補給と感染環形成のための出口を確保するという、巧妙としかいえないような戦略をとっている。結核菌は宿主本来の解剖学的構造を改良して、自然には存在しない排出経路を肺に作るという意味からも、最も病原体らしい微生物といえる。また開放性結核の患者は、感染環の維持から見ると、ほかの伝染病における保菌者とかキャリアとよばれる人だちと同じ役割を果たしていることになる。結核が昔のように恐ろしがられる病いでなくなったのは、患者の早期発見や強力な化学療法によるところが大きいのはいうまでもない。